リスクとは何か:人は不確実性を嫌い、選択肢が多いと買わなくなる

ビジネスでのリスクとは何でしょうか。多くの人はリスクのことを「危険」のことだと認識しますが、実際には違います。ファイナンス理論では、リスクが高いことを「不確実性が大きい」と表現します。

人間というのは、不確実なことを嫌う生き物です。それでは、不確実性とは何でしょうか。

リスクについてきちんと理解すれば、マーケティングをどのように実施すればいいのか分かるようになります。また、不確実性は好ましくないことを引き起こすことがよくあるため、どのようにして回避すればいいのか理解できるようになるのです。

ここでは、リスクに関する本当の意味について確認していきます。

リスクにはチャンスも含まれる

日本語でリスクを表す漢字は「危機」です。この言葉の通り、リスクには「危険」という意味だけでなく、「機会」という意味も含まれています。つまり、リスクがあるということは、それだけチャンスの幅も広がることを理解しなければいけません。

例えば、次のような2つの条件があるとします。このとき、どちらを選ぶでしょうか。

  • A:確実に1万円がもらえる
  • B:サイコロを振って4以上であれば2万円をもらえるが、3以下であれば何もない

この場合、多くの人は「A:確実に1万円がもらえる」を選びます。なぜなら、Aは100%の確率で受け取ることができるからです。

Bだとチャンスは大きいですが、「何も受け取れない可能性がある」という不確実性があるため、どのような結果が待ち受けるか分からない将来を避けるのです。

1万円ではふり幅が大きいため、「不確実性が大きい」といえます。それだけ失敗したときのリスクが大きいのです。一方、次の条件ではどうでしょうか。

  • A:確実に100円がもらえる
  • B:サイコロを振って4以上であれば200円をもらえるが、3以下であれば何もない

この場合では、冗談半分でBを選ぶ人はかなり増えます。別に200円をもらえなくても大きな痛手ではなく、むしろ笑いのネタになることでしょう。

たとえ確実に100円を受け取れなかったとしても、そのふり幅は小さいです。言い換えれば、「不確実性が小さい」ともいえます。

最初の1万円では不確実性が大きいため、リスクも高いです。しかし、100円の例では不確実が小さいため、リスクも少ないです。ビジネスでは、このような不確実性のふり幅がどれだけあるかによって、リスクの大小が決まります。

そうしたとき、例えばキャンペーンを実施することで多くの人に手に取ってもらうことを考える場合、以下のどちらが最適でしょうか。

  • 応募してくれた人、全員にティッシュペーパーをプレゼント
  • 応募した人の中から、抽選で10人に3,000円商品券をプレゼント

金額からいえば、3,000円商品券のほうがプレゼントの価値は大きいです。ただ、キャンペーンとしては威力が少ないです。たった10人しか当たらず、不確実性が非常に大きいからです。一方で全員に当たると確約している場合、多くの人が申し込んでくれるようになります。

ビジネスをするとき、お客さんにリスクを取らせるのはやめましょう。これを意識するだけで売上が大きく変わるようになります。

満足度に慣れると、人間はさらに確実なほうを選ぶ

また、リスクを理解するうえでは「人間の満足度」について理解することも重要です。まず、人間は商品・サービスをたくさん受け取るほど、感じる満足度が高くなります。しかし、このときの満足度がずっと上昇し続けることはなく、少しずつ慣れてきます。

例えば、夏に激しい運動をして汗だくになったあと、ジュースを渡されるとします。大量の水分が抜けた体にとって、1本目のジュースは最高の味わいになることでしょう。

では、2本目のジュースで感じる満足度は1本目に比べてどうでしょうか。また、3本目の満足度はどうでしょうか。

おそらく、多くの人は1本目のジュースは満足度が高く、2本目になると少なくなるはずです。のどの渇きがある程度満たされるからです。3本目では、満足度はさらに少なくなります。与えられる物の数が多くなったとしても、満足度は頭打ちになることが分かります。

それでは、このときの満足度を点数化してみましょう。ある人の満足度を合計100点満点で点数化したところ、「1本目のジュース:50点」「2本目のジュース:20点」「3本目のジュース:10点」だったとします。

満足度の慣れ

ここで、先ほどと同じように条件をつけます。

  • A:確実にジュースを1本もらえる
  • B:サイコロを振って4以上であればジュースを3本もらえるが、3以下であれば何もない

このとき、多くの人はやはり「A:確実にジュースを1本もらえる」を選びます。満足度でいえば、Aは確実に50です。

しかし、たとえBを選んで上手くいったとしても、満足度は80なのでそこまで大きく変わりません。半分の確率で満足度がゼロになることを考えると、確実にリスクのない方を選びます。

最初の1万円の例で示したように、「1万円」と「2万円」など慣れが起こらないだろうと考えられる場合であっても人間はリスクを嫌います。

もしこれがジュースのように、「何かに慣れるような場合」であれば、不確実性はさらに嫌われる傾向にあります。ふり幅が小さいにも関わらず、得られるリターンが少ないからです。

集団的無知での不確実性から、正しい行動をさせる

このように、リスクは身近な現象から考えることができます。ただ、不確実な状況を脱するように仕向けるのは、ビジネスの場面に限らず「人間に正しい行動をさせる」というさまざまな場面で活用できます。

例えばあなたが緊急事態に陥ったとき、周囲にたくさん人がいる状況だと何だか助かりそうな気がします。しかし、たとえ周辺に多くの人がいたとしても、助からない可能性が高いです。なぜなら、ここに「集団的無知」という原理が働いているからです。

何だか良く分からない不確実な状況であると、多くの人は何もなかったかのように振る舞います。

例えば隣の家で騒ぎが起きていたとしても、多くの人は単なる夫婦喧嘩だと思います。しかし、後で聞かされるとただの夫婦喧嘩ではなく、日ごろの不満が爆発したことによる殺人事件だったらどうでしょうか。

ここで、「何で隣の家が騒いでいたのに止めに入らなかったのか」と他の人に言われたところでどうしようもありません。そんな騒ぎになるとは思ってもいなかったからです。

しかも、ただの夫婦喧嘩に警察を呼ぶのは明らかに不自然です。単なる喧嘩だったとき、後で嫌な顔をされるのが目に見えています。

このとき重要となるのは、不確実性があることです。本当に警察を呼ばなければいけない状況だと分かるのであれば良いですが、そうでなければ人は平静を装うようにします。隣の家が騒いでいるからといって、急に取り乱して何も考えずに警察を呼ぶ人はいないのです。

そして、これはあらゆる場面で同じことがいえます。道端で人が倒れていたとしても、酔っぱらって寝ているだけなのかもしれません。このような分からない不確実な状態であれば、人は何もなかったかのように振る舞います。

個人を指名し、責任を明確にさせれば人は動く

それでは先ほどの夫婦喧嘩の場合、「誰か助けてください」と叫べば良いかというと、そうでもありません。周囲にたくさん人がいる状況であると、「他の誰かが助けるだろう」と多くの人が考えてしまうからです。

このときの「誰か」というのが、自分の事を指されているとは誰も思わないのです。

周辺に人がいれば必ず助かるわけではありません。このときは他人任せになって、あなたが助かる可能性がむしろ低くなってしまいます。

それではどうするかというと、個人を指定します。「誰か」ではなくて、「まさにあなたに助けて欲しい」とメッセージを発しなければいけません。そうすると、ようやく他人は「自分に責任がある(自分が指名されている)」と思って動いてくれるようになります。

例えばあなたが心臓発作で緊急事態に陥ったとき、周囲に人がいる状況で助かる方法は一つしかありません。

「誰か助けてください」ではなくて、例えば「そこを歩いている青のジーパンを履いたメガネの男性の方、助けてください」と限定するのです。

これによって、ようやく個人に責任が発生して動いてくれます。助かるためには、このような不確実な状況をできるだけ排除するように注力しなければいけません。

特定商品に絞る理由:選択肢が多くなると人は買わなくなる

そしてこれは、マーケティングや営業、コピーライティングなどによって商品を買ってもらうケースも同じです。よくあるのは、「ここにある商品は全部素晴らしいので買ってください」というメッセージです。ただ、これでは確実に売れません。そうではなく、できるだけ絞らなければいけません。

実際のところ、商品が売れていって上手く軌道に乗ると、多くの人は様々な商品を作ろうとします。例えばアイスクリーム屋やケーキ屋を営むにしても、たくさんの種類に手を出そうとします。

このようにすると、大抵は失敗します。種類が多いと人間は選ばなくなるからです。

例えば、家のテーブルが古いので買い替えたいとします。そこで店に行きますが、多くの種類のテーブルがあります。その中で、どのテーブルを選べば良いのか基準が分からないはずです。

大きさも違えば色も違います。値段も大きく異なります。一体何が違うのか分かりません。店員さんでもいれば良いですが、店員がいなければ聞くこともできません。

その結果、多くの人はどうするかと言うと「買わない」という行動に走ります。商品が多すぎて何を選べば良いのか分からないため、「商品を買う」ことを選択しないのです。

それでは、もし2種類しかなかったらどうでしょうか。例えば、次のような説明書きが提示されていたとします。

  • A:シンプルなデザインだが、何十年も長持ちするファミリー向けテーブル
  • B:少し高いが、高級感溢れる質感のシニア向けテーブル

このように種類を少なくして商品コンセプトを出すことで、お客さんは迷わずにテーブルを選んでくれます。つまり、商品を購入してくれます。重要なのは、「できるだけお客様の頭で考えさせない」ことです。

人は自分の頭で判断するのを嫌います。そのため、できるだけ簡単な選択肢の方が好まれます。

例えば、某牛丼チェーンは牛丼しか提供しません。しかし、これで良いのです。ここにカレーやラーメンまで出し始めると、話がおかしなことになってきます。どのメニューが良いかお客さんが決めないといけないため、客足が次第に遠のいていきます。

また、牛丼チェーンであれば「いつも出てくる安い牛丼」を確実に食べることができます。失敗することがなく、ここにリスク(不確実性)はありません。その結果、特定のメニューしか提供されないのに売れていくようになるのです。

どのビジネスでも種類は少ないほうが良い

こうした原理を学べば、どのように商品を売っていけばいいのか分かってきます。例えばWebサイトで商品を売っている企業は多いですが、多くの会社はトップページに多くの商品を並べています。

しかし、これで売れるわけがありません。たくさん商品があれば、サイトを訪れたお客様は何を選べば良いのか分からなくなってしまうからです。

そこで、メッセージを少なくする必要があります。基本的には一つのメッセージを絞ります。「このサイトではあれもこれも売っています」といろんな商品をアピールするのではなく、「このサイトを訪れた際は、ぜひこの商品一つだけで良いので購入してください」と見せなければいけません。

インターネットを使って商品販売を行う場合、「ワンサイト、ワンメッセージ」という言葉があります。つまり、一つのサイトでの目的を一つにしなければいけません。

このときは特定の商品を買わせることかもしれませんし、資料請求を促すことが最終目標かもしれません。お試しセットを購入させることかもしれません。いずれにしても、メッセージを絞るほど反応率が高まります。

参考までに、当サイトのメッセージは「メルマガに登録してほしい」という一つだけです。以下のように、全ページにメルマガ登録の導線を作っています。

他にも、広告やセールスページを含め商品が売れる原則は「一つの商品だけを紹介しているとき」になります。2つ以上の商品を販売していることはありません。

例えば、以下のように「この商品を購入してくれ!」という単一のメッセージだけを発します。

こうした考え方はリアルビジネスでも同じです。大企業をはじめとして名前が知られている企業が出す広告は別として、ネームバリューも信頼もない中小企業が出す広告はどれも「この商品を注文してください」と一つのメッセージしか存在しないことが分かります。

商品の種類は少ないほど良いです。お客さんが迷うことなく商品を選んでくれるからです。前述の通り、牛丼屋では牛丼しか提供してはいけません。牛丼屋でカレーやラーメンが出始めると、お客様が離れていきます。これには、当然ながら理由があります。

ビジネスでは、お客さんのリスクをできるだけ排除しなければいけません。不確実性をなくすことを考えると、商品の種類は少ないほどいいのです。

対象のお客さんを絞るのも重要

また、同じように考えると「ビジネスを実践するうえで、どのお客さんに選んでほしいのか」も考えるようにしましょう。全員を対象にする商品ほど売れないものはありません。

先ほど、自分に緊急事態が起こったとしても特定の人を指定しなければ助かりにくい例を示しました。これはビジネスでも同様であり、特定の一人を指定しなければお客さんは反応してくれません。

例えばダイエット商品を売るにしても、「ダイエットに悩んでいる人に最適!」というメッセージは最悪です。誰に向けた商品なのか分かりません。

そこで、「水着の季節の夏に向け、少しでも魅力的なプロポーションで迎えたいあなた!」などのようなメッセージにしなければいけません。

これにより、20代の若い女性が反応してくれるようになります。一人の人間(ペルソナ)を設定するビジネス手法をペルソナマーケティングといいますが、特定の人間に絞るほど商品が売れるようになります。

個人を限定し、分野を狭め、売る商品を少なくするからこそ爆発的に売れるようになります。誰がターゲットになるのか不確実にしてはいけませんし、売る商品についても種類を多くして不確実性を高めてはいけません。

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リスクの原則を学び、ビジネスでのマーケティングに活かす

ビジネスでのマーケティングや営業、コピーライティングを含め、リスクについて学ぶことは重要です。リスクというのは、「人間は不確実なことを嫌う」ことに尽きます。

そこでビジネスをするとき、「お客さんに対して不確実性をできるだけ排除する」ことを意識しましょう。そうすれば、以下のように考え方を変えることができます。

  • 確実に当たるキャンペーンを実施する
  • 商品数を少なくする
  • 特定分野に特化したビジネスをする
  • お客さんの対象を絞る
  • お勧め商品(自身のある商品)を作る

お客さんの根底には「失敗したくない」という心理があります。そのため、お客さんのリスクを取り去るほどビジネスがうまく進みます。

不確実性を取るための方法としては、ここに挙げた以外にも多くのアイディアがあります。いずれにしてもリスクを取り去ることを考え、売上・利益を創出してビジネスを発展させるようにしましょう。

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