ビジネスを実践するとき、当然ながら仕事をする必要があります。ただ、多くの人は「仕事」ではなく、単に「作業」をしているだけに過ぎません。作業とは「自ら頭を使おうとせず、従属的に動くだけ」の行動を指します。
これについては、企業が作成するマニュアルをどのように活かすのかによって変わってきます。マニュアル通りに動く場合は単なる作業であり、それ以上のことを自ら判断して動く場合は仕事をしているといえます。
マニュアルというのは、必要な場面とそうでない場面があります。何でもマニュアルを意識すると、むしろ仕事のパフォーマンスが落ちてしまいます。
もちろん、すべてのマニュアルで意味がないわけではありません。マニュアルが大きな効果を発揮することもあります。ここでは、会社組織でマニュアルを作成する意味を理解したうえで、作業と仕事の違いについて踏み込んでいきます。
マニュアルに従う必要があるのか
マニュアルというのは、いわゆる手順書のことです。特に新人を採用したとき、マニュアルは大きな力を発揮します。マニュアルさえ渡しておけば、少し教えるだけでその通りに動いてくれるようになるからです。
多店舗展開している飲食の大手チェーンストアであるほど、マニュアルを徹底しています。例えば有名なハンバーガーチェーンであれば、フライドポテトを揚げる時間を秒単位でマニュアル化しています。ハンバーガーにしても、何分何秒で完成されるかまで計算されています。
ここまでマニュアル化することで、新人アルバイトであってもベテラン従業員とまったく同じ味と品質で商品を提供できるようになっています。
そのため、こうした飲食業チェーンは自社のことを飲食業だとはいいません。そうではなく、自分のビジネスモデルを不動産業だといいます。
どこで誰が店を出しても同じ味を提供して満足してもらえるマニュアルがあるため、あとはどれだけ立地の良い土地へ出店するかがカギになります。そのため飲食業として捉えるのではなく、優れた不動産をおさえることのほうが重要になるのです。
このように見ると、マニュアルは素晴らしい仕組みのように思えます。ただ、マニュアルは「頭を使わなくても同じパフォーマンスを発揮できるようにする」ことは可能であるものの、それ以上のパフォーマンスを生み出すことができなくなります。ここに、マニュアルの罠が隠されています。
会社組織での作業と仕事の違い
世の中には、誰でも行える仕事があります。先ほどのハンバーガーチェーンがこの代表であり、新卒バイトであっても10年以上働いている社員と同じパフォーマンスを発揮できます。
これと同じことは、工場の現場作業でもいえます。単なる流れ作業であれば、一日ほど指導してマニュアルを渡せば、誰でも行うことができます。これを世間一般的には「作業」といいます。
ただ、作業というのは機械でも行うことができます。また、その状態では大きなビジネスを動かすことはできません。資本主義社会の中で生きていく以上は、自ら価値を生み出す「仕事」をする必要があります。つまり、単にマニュアルに沿っているだけでは不十分であり、そこに自分独自の考えを入れる必要があります。
マニュアルから逸脱することで、ようやくクリエイティブで生産性のある仕事を行えるようになります。これは、ハンバーガーチェーンでも同様です。
マニュアルを作成するためには、多くの試行錯誤が必要です。ゼロからマニュアルを作る必要があり、さらには時代の流れと共にマニュアルの内容を変えていかなければいけません。そのためマニュアルに従うだけの状態は作業ですが、マニュアルを作る側になると仕事になります。
単純作業と成功体験に注目し、その業務の仕組み化を行う
このように考えると、会社組織においてマニュアルがすべてではなく、それをどのように活用するのかが重要であるといえます。単なるアルバイトであるなら、マニュアルに従ってさえいれば問題ありません。ただ、新たなサービスを生み出すなど創造性の高い仕事を行いたい場合、マニュアルを無視する必要があります。
法人にとってマニュアルは便利です。ただ、その使いどころを間違ってはいけません。誰でも行える単純作業には、マニュアルが向いています。ただ人によって対応を変えたり、その場に応じた対応をしなくてはいけなかったりする場面など、マニュアルがあてにならない場合では、ある程度の柔軟性をもたせる必要があります。
こうしたマニュアルの特性を理解したうえで、企業組織でルールを構築していくのです。そうすれば、ビジネスで成果を上げやすい柔軟なマニュアルが完成されます。
マニュアルを作り、単純作業(ルーチンワーク)の仕組み化を行う
そうしたとき、クリエイティブな仕事としては前述の通り「マニュアルを作る」ことがあげられます。バイトを含め、決められた作業を誰でも行えるようにするのです。
要は、自社の事業を円滑に進めていくために必要な「仕事の仕組み化」を作り上げていきます。これを実行に移さなければ、自社の業務によって常に時間に追われるようになってしまいます。
このとき、自社の事業に仕組み化を取り入れるときのポイントとして、「単純作業(ルーチンワーク)と成功体験の仕組み化を考える」ことがあげられます。
・ルーチンワークの仕組み化を行う
既にやり方がある程度決まっている単純作業(ルーチンワーク)の場合、最優先で仕組み化を実行に移すことが望ましいです。
単純作業の仕組み化を行わないままビジネスを進めていると、結果的に多くの時間を浪費することになるからです。場合によっては、業務内でミスが多発して自社の利益が失われる危険性もあります。
ルーチンワークの仕組み化ができていない場合、新しい従業員を雇うたびに既存社員がその指導に当たらなければならなくなります。するとその既存社員は、「自分が担当する仕事」と「後輩社員に対する指導」の板挟みになってしまいます。
そこで、事前に後輩指導を効率的に行う仕組みを作っておけば、社内の業務が円滑に動くようになります。単純作業についてはひたすら仕組み化していくのです。
例えば私の場合、Webサイト運営をビジネスの基盤としていますが、このときは外注ライターに依頼して記事作成を担当してもらうことが頻繁にあります。このとき、記事ライティングのルールを動画で撮り、Web上にアップすることで確認してもらうようにしています。以下の通りです。
最初は面倒ですが、一度でもこうした作業を済ませておけば、後は外注ライターが勝手に学んでくれます。私が直接教えなくてもいいため、結果として私の時間が増えます。これと同じように、自分が動かなくても問題ない仕組み作りをするのが仕事だといえます。
成功体験の仕組み化を行う
なお、会社の従業員やビジネスマン(経営者)として仕事に取り組んでいると、ときには思わぬ成功を果たせることがあります。例えば、「いつもよりも早い時間で仕事を終わらせることができた」「今週は、いつもよりも多くの成約を取ることができた」といった成功体験です。
このような成功に巡り合ったとき、「今回はたまたまうまくいって良かった」と喜ぶだけではいけません。このときに考えるべきことは、「なぜ今回は、このような成果を生み出すことができたのか」ということです。
さらにいうと、「この成功体験を何度も再現できる仕組みの作成」に取り掛かりましょう。
例えばあなたがセミナーを開催したとき、セミナー後に販売していた高額商品がいつも以上に売れたと仮定します。この場合、「なぜ今回は、高額商品の売れ行きが良かったのか」について考えた上で、そのセミナーについて自分が取り組んだことなどを細かく思い返すようにします。
「セミナーでどのようなスピーチを行ったか」「自分はどのような服装だったか」「セミナーで使用したスライドは、今までのものとどのような違いがあったか」などについて振り返るのです。
これによって「成功に至ったポイント」を見つけられた場合、今度はそのポイントを仕組み化していきます。そうすることで、成功体験を何度も再現できるようになる可能性が高まります。
・常にデータの蓄積を行うべき理由
成功体験の仕組み化を行うためには、普段から自身の業務に関するデータを集めておくことが重要になります。自分の記憶だけを頼りに成功体験の仕組み化を行おうとすると、思うように組み立てられない可能性が高いからです。
成功体験を仕組み化できるようにするためにも、自身が取り組んでいる仕事の情報を普段から記録するようにしましょう。実際に成功体験の仕組み化ができれば、さらに良い成果を出せるようになります。
仕組み化できる仕事とそうでない仕事の違いを理解する
このように単純作業(ルーチンワーク)と成功体験を仕組み化することで、自社の業務をスムーズに進められるようになります。
しかし実際のところ、仕事の内容によって、仕組み化できるかそうでないかが異なります。そのため業務の仕組み化に取り組む際には、まずは「どのような仕事であれば仕組み化ができるのか」を見極める必要があります。
それでは、「仕組み化できる仕事とそうでない仕事の違い」と「業務を仕組み化する手法とその考え方」はどのようになっているのでしょうか。
このうち仕組み化できる仕事とは、「頭の中で考えなくても、手や足などを動かすことで進められる業務」のことを指します。いわゆる、肉体労働に当たります。肉体労働の具体例としては、「荷物の運搬」「製品の数量チェック」「商品の品質検査」「作業場の清掃」などが挙げられます。
一方で仕組み化できない仕事とは、「頭の中で考えながら取り組む必要がある仕事」を指します。いわゆる、知的労働に当たります。
知的労働の具体例としては、「出版物などの編集」「新しい事業の立ち上げ」「経営戦略を立てる」などがあげられます。
まずは、こうした違いを理解しなければいけません。
業務を仕組み化する手法とその考え方
自社の事業において「仕事の仕組み化」を取り入れたい場合、まずは頭を使わずにできる肉体労働をピックアップしていきましょう。そうした上で、それらの業務をひたすら仕組み化していきます。
これを行うことで、勤続年数が長いベテラン従業員に限らず、入社したばかりの新人社員の働きであっても業務をスムーズに進められるようになります。
また、肉体労働の仕組み化を行うことで、その分だけ時間に余裕が生まれるようになります。このとき確保できた時間は、頭を使って取り組む知的労働にできるだけ費やしましょう。知的労働によって作り出された企業計画や新規事業案などが、そのまま将来の結果へとつながるからです。
さらにいうと、肉体労働だけに注力している状況ではビジネスを発展させていくことはできません。自社に所属する従業員を成長させていくこともできなくなります。
そうした事態を避けるためにも、肉体労働の仕組み化によって作り出した時間を知的労働に費やし、企業と社員の成長を促すのです。
知的労働を積極的に行い、肉体労働では楽にすることを追求する
ただ多くの人は、知的労働における面倒な仕事を避け、肉体労働での面倒な仕事を優先させてしまう傾向にあります。その理由は、「肉体労働であればどれだけ面倒であっても、頭を使わずに済むため」です。
例えば「新人に指導するくらいなら、面倒だけど自分でやってしまおう」「事業計画を立案するのは大変だから、目の前にある仕事から取り掛かろう」などと考えてしまうのです。
このような形で業務を進めていると、肉体労働に多くの時間をかけたままになってしまいます。その結果、多くの問題を先送りにした形となってしまい、いつまで経っても仕事が楽にならない状況に陥ります。これでは企業を成長させるどころか、その存続自体が危うくなってしまいます。
こうした事態を避けるため、たとえ面倒な仕事であっても知的労働には多くの力を注がなければいけません。その一方で肉体労働を徹底的に仕組み化し、将来的に業務内容を楽にできるものにする必要があります。
作業効率化がビジネスで必須
仕事と作業の違いを理解すれば、どのように動けばいいのか理解できるようになります。アルバイトのように作業を求められているのであれば頭を使わずに働けばいいです。
ただ、バイトでない場合は想像力を求められる仕事をしましょう。単にマニュアルに従うのではなく、むしろマニュアルを作る側に回ることで作業効率化を図るようにするのです。自ら頭を使い、クリエイティブな仕事を行うようにしましょう。
ビジネスなどでの仕事を大きく分けると、頭を使わずにできる「肉体労働」と頭を使って取り組む「知的労働」の2つに分類できます。あなたのビジネスを加速させるためには、肉体労働を徹底的に仕組み化し、それによって確保した時間を知的労働に費やす必要があります。
仕事をしている人というのは、全員が知的労働者です。肉体労働をしているようでは、単なる作業だといえます。この違いを学び、作業効率化や戦略立案など「単なる仕組み化が無理な仕事」に、積極的に従事するといいです。
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