人が何らかの決定を下すとき、他人の行動をもとに物事を判断する傾向があります。例えば、事件や火事などが起こり、その現場の周辺に野次馬が集まっている場合、それにつられて多くの人が野次馬に加わってしまいます。
また、飲食店がテレビ番組で取り上げられた場合、それを見た視聴者は「この店は人気があるんだ」と判断します。テレビで取り上げられた翌日には、その飲食店に長い行列が作られます。
こうした効果は、あらゆる場面で確認できます。例えば特定の業界で一番の売上であると、その会社のことを何も知らないのに「素晴らしい技術のある会社なのだろう」と勝手に思ってくれるようになります。
私たちは他人の行動を見たときに、それにつられて自分も同じ行動を取る性質があります。これをパンドワゴン効果と呼び、別名で社会的証明の原理ともいいます。マーケティングや営業の初歩となる考え方ですが、どのようにビジネスで取り入れればいいのかを解説していきます。
日常で用いられているパンドワゴン効果
私たちの日常生活では、社会的証明の原理が用いられている例が複数存在します。このとき、バンドワゴン効果を大きく分けると、以下の3つに分類できます。
- 多勢に与する:多数派に集まりたくなる心理
- 時流に乗る:人気の商品や流行の商品が欲しくなる心理
- 勝ち馬に乗る:選挙の投票などで、有力候補者に票を入れたくなる心理
これらのバンドワゴン効果が働く状況では、自分の意思とは関係なく、他人に同調したり商品が欲しくなったりしてしまいます。
例えば、バラエティー番組を見ているとき、録音の笑い声が流れることがよくあります。これは、番組制作者の計算の上で行われています。
番組を見ているとき、その番組の笑いどころで録音の笑い声が流れると、たとえつまらない内容であったとしても、つられて笑いやすくなってしまいます。録音の笑い声を流すことによって、番組の満足度を高めようとしているわけです。
また飲食店のなかには、連日、外に長い行列ができるほどの人気店が存在します。こうした行列を見た人の多くは、「この店の料理は、きっとおいしいに違いない」と考えて、その飲食店の行列に並びます。
行列ができる飲食店のなかには、できるだけ長い行列を普段からできやすくするために、わざと店内の面積を狭くしている場合があります。つまりそのような飲食店は、パンドワゴン効果を理解した上で効果的に活用しているといえます。
このように私たちの日常生活では、心理テクニックを効果的に活用している例がいくつも存在します。さらにこれらの手法は、それぞれの業界や会社が計算の上で実践しているものです。また、実際に大きな効果を発揮する手法となっています。
広告ビジネスでのコピーライティングの反応率を上げる考え方
先ほどの飲食店の例に限らず、多くの人に利用されている実践例を効果的にアピールすればビジネスをさらに発展させることが可能になります。
例えば、書店に行くとベストセラーになった本が特設コーナーに置かれ「累計10万部突破」などと紹介されています。これは、「この本はこれだけ多くの人に売れている」ことをアピールし、より多くの人に本を買ってもらおうという書店側の計算の上で採用されています。
また、サプリメントや化粧品などの広告・CMでは、「累計販売数3万個以上の、ご愛顧をいただいています」といった言葉が使われています。例えば、以下のような広告です。
こうしたコピーライティングを用いることで、広告を見た人たちに「使っている人が多い商品なら、きっといいものだろう」と判断させることができます。
営業セールスでも多用される同調効果
こうした同調効果を用いたマーケティングの事例は数多く存在します。広告などでのマーケティングだけでなく、当然ながら営業・セールスの場面でも効果的です。
例えば保険商品を売る場合、お客さんは保険知識がないので、何れの保険に加入すればいいのか見当がつきません。そうしたとき、「最も売れている商品はこれです」「ほとんどの人がこの商品に加入しています」と勧められると、その商品をどうしても選んでしまいます。
人間は以下のような言葉に弱いです。
- 売り上げ第1位を獲得
- 他の人もたくさん利用しています
そうしたとき、選ばれていることをアピールすれば「売り上げ1位なら安心だな」「多くの人が使っているなら買ってみようかな」という心理になってくれます。
同じように、ロングセラーの商品が長期間にわたって売れ続けることにもバンドワゴン効果が関係しています。多くの人から買われ続けている商品の場合、勝手に口コミが起こります。このときは「長く売れ続けている商品なら、その中身は良いに違いない」との集団心理が働き、より売れていくようになるのです。
・売れていることを証明し、限定性を付ける
さらにいうと、パンドワゴン効果に限定性を付けるとより強力になります。例えば、見込み客のもとに訪問販売して商品の説明を終えた後、以下のような言葉を使います。
実は、当社の商品は在庫が少なくなってきており、商品の購入をお決めいただいたときには、既に残っていない可能性が高いです。もし、この場で商品をご注文いただければ、私の方で何とか商品を確保できるのですが……。 |
この状況では、商品の説明を受けた見込み客は営業マンの言う情報で物事を判断するしかありません。そのため、営業マンのセリフを聞いた見込み客は「他の人に先を越される前に買っておかないと、後で後悔するかもしれない」と考えます。それにより、かなりの確率でその場で商品の注文を決心してくれます。
このように、相手の行動をこちらの意図する方向に誘導することができます。もちろん、お客さんには必ず優れた商品を売る必要があります。これによって結果的に多くのお客様に感謝されれば、その会社は長く発展し続けることができます。
[blogcard url=”https://pharm-kusuri.com/psychologia/kisho.html”]
「お客様の声」を活用し、売り上げを増大させる
また、ビジネスで活用される社会的証明の原理のうち、極めて強力なものとして「お客様の声」があげられます。お客様の声があるだけで、商品の売り上げに大きな差が付いてしまうケースがあります。そのためビジネスを発展させるためには、お客様の声を積極的に集め利用していくことが重要だといえます。
例えば、以下のようなものが該当します。
出典:音羽謹製
こうしたお客様の声があれば、大きなパンドワゴン効果が働きます。「このように実際のお客さんがたくさんいる」と感じさせることができれば、それだけ信頼を獲得できるからです。
しかしお客様の声を掲載するとき、多くの人がやり方をミスしています。コピーライティングのことを理解していないのか、「ウソのお客様の声」を掲載しているからです。たとえ本当だったとしても、「これは本物のお客様の声だ」と判断してもらえるように留意し掲載しているケースはほとんどありません。
お客様の声の悪い例としては、「コメントだけを載せたもの」「プロ写真が掲載されているもの」が挙げられます。これでは、「ウソの声だ」と思われてしまいます。
そのため素人写真を掲載しなければいけませんし、当然ながら実際のお客さんの顔が映っている必要があります。さらにいうと、コメントもお客様自身に手書きで書いてもらうほうが望ましいです。
ここまで実践することで「これは本物のお客様の声だな」と判断してくれるようにより、商品の売り上げをさらに膨れ上がらせることができます。
商品購入の問い合わせを大量獲得する方法
それでは、どのようにして多くの人からの指示を集め、人を購買へ導けばいいのでしょうか。流行や行列を作ればパンドワゴン効果によって勝手に商品が売れることは分かりました。しかし、「最初のきっかけ作りを、どのように設定すればいいのか」を理解しなければいけません。
これについても、やはりパンドワゴン効果を用いましょう。例えば通販番組の後半では、必ず「お申し込みは今すぐ!」といったセリフで締め、視聴者に電話を促します。
しかし通販によっては、「お申し込みは今すぐ!」というセリフではなく、「売れすぎてオペレーターにつながらないことがあるため、恐れ入りますがつながるまで繰り返しお電話ください」といった言葉を使うことがあります。
一見すると、2つ目のセリフに変えることで、お客さんに「何度も電話をかけなければいけないのは面倒だな」と思われ、番組への問い合わせをためらわせてしまいそうです。しかし、実際には問い合わせは増えます。
この現象は、通販番組がパンドワゴン効果(社会的証明の原理)を活用したことによって引き起こされています。つまり「売れすぎて電話がつながらない」という言葉から、視聴者は「この商品の人気がすごくて、オペレーターの対応が追いつかないのだ。それなら、他の人に先を越される前に問い合わせしなくては」と考えます。
それにより、大量のお問い合わせが来るという現象が起こります。また、そうして実際にたくさん売れると、パンドワゴン効果によってさらに売れるようになります。
実際に社会的証明の原理を用いた実例
当然ながら、私もマーケティングや営業を仕掛けるときはパンドワゴン効果を意識します。例えば、私の場合は過去に商業出版したことがあります。以下のような本です。
多くの書店で平積みされ、増刷を繰り返すことで結果としてかなり売れたのですが、このときは短期間にいろんな新聞広告を出しました。そうなると、当然ながら大型書店やAmazonでのランキングで上位を取れます。
実際に取れたランキングは以下の通りです。
- ジュンク堂書店京都店:週間ビジネス書1位
- 丸善名古屋本店店:週間ビジネス書1位
- Maruzen&ジュンク堂書店梅田店:週間ビジネス書4位
- 三省堂書店神保町本店:週間ビジネス書5位
- Amazon:マーケティング・セールス部門1位
もちろん、他にもいろいろランキング上位を実現できていますが、こうした実績を作り上げたのです。そうしたうえで日経新聞などに「実際に売れている書籍」という実績付きで新聞広告を出し、さらに売れるように仕向けたわけです。
増刷を重ねていったのは、こうしたマーケティング戦略を実施したことも大きく影響しています。
意図的に行列を作り、他人を行動させる
また、グレーではありますが、場合によっては一般客になりすましたサクラを用意することもマーケティングで広く行われています。
例えば以下のようなイベントのとき、どの店に並びたいでしょうか。当然、まったく人が並んでいない店ではなく、ある程度の行列ができているほうが良さそうな店に思えてしまいます。
このとき、実はサクラを使うと店の売上が大幅に上昇することが分かっています。行列要因のためにサクラを利用するだけで、サクラへのバイト代をはるかに超える売上を叩き出せるのです。
ただサクラを使う場合、特に注意しなければならないこととして、「一般のお客さんにサクラを使っていることを知られてはならない」ことがあげられます。お客さんにサクラを活用していることがばれると、一瞬で信用を失って悪い口コミが広がります。
パンドワゴン効果を狙うためにサクラを使うのは大企業であっても実施しているマーケティング手法でもあります。悪く言えば「やらせ」であり、良く言えばマーケティングになります。ただ、お客さんには絶対に分からないように、あからさまなやらせは行わないようにしましょう。
オークションを含め、多くの人を参加させるほど売れる
こうした考え方を理解すれば、ECサイトを含めネットビジネスとして商品を売る方法についても理解できるようになります。例えばAmazonで商品を売る場合、広告を出して露出を増やすなど、何としてでもレビューを獲得する必要があります。
そうしてレビューが増えていけば、売れている商品だとアピールできるため、パンドワゴン効果が働いてさらに売れるようになります。
実際、あなたも実際に購買するときでは、レビュー数や評価に着目して口コミ内容を確認するはずです。
そうした顧客心理を理解すれば、「商品が売れるための初速」を付ける工夫が必要になります。私が商業出版をしたとき、短期間に広告を出して実績を作ったのと同じことを実践するのです。
この考え方は、ネットオークションなどに出品するときにも通用します。ネットオークションに出品する場合、「最初に設定する値段をどのように決めようか」と悩む人は多いです。
このとき、多くの人は最初の値段を高めに設定しますが、実際には最初に設定する値段はできるだけ安くしたほうが良いです。
その理由として、「出品物を入札するハードルが下がる」ことがあげられます。最初の値段をなるべく安価に設定することで、予算に余裕がない人でも入札に参加することができます。
また入札者の数が多いことによって、多くの注目を集めるようになります。入札者数が少ないページに対して、人はわざわざ訪れようとは思いません。「入札者数が少ないということは、この品物は大したものではない」と判断されるからです。
その一方で出品ページの入札者数が多いことを確認したとき、多くの人は「この出品物に多くの入札者がいるということは、この品物はきっといい商品だ」と感じます。ここでも、パンドワゴン効果が大きな威力を発揮するようになるのです。
入札者の数が多ければ多いほど、次々に出品物の値段が跳ね上がっていきます。その結果、最初の安めの値段設定とは考えられないくらいに高い金額で落札される可能性が高まるのです。
同調させる心理テクニックをビジネスに取り入れる
心理学の一つにパンドワゴン効果(社会的証明の原理)があります。有名なマーケティング手法であるため、営業・セールスや広告でのコピーライティングを含め、あらゆる企業で活用されているビジネス手法でもあります。
多くの人に支持されている場合、人は勝手に「良いものだ」と思い込んで商品・サービスを買うようになります。そこで、こうした同調効果を活用してあなたのビジネスに取り入れるようにしましょう。
パンドワゴン効果は大企業に限らず、中小企業や個人事業主を含め誰でも活用できる心理テクニックの一つです。
何らかのランキングで1位を取ったり、お客様の声を活用したりすれば、それだけで優れた製品・サービスだとアピールできるようになります。こうしてお客さんを獲得していき、さらにパンドワゴン効果を活用してビジネスを加速させるようにしましょう。