上司として部下を抱える立場になったとき、人によっては「どのようにすれば、部下をまとめることができるのかが分からない」「部下に仕事をしてもらえるようにするには、どうすれば良いか」といった悩みを持ちます。
これらの悩みを解消するためには、部下への適切な対応の仕方を理解し、それを実行する必要があります。
このとき、部下に対する正しい対応の仕方の1つとして「できるだけ部下に仕事を任せる」ことが挙げられます。自分が行うのではなく、人に仕事をまかせることをできるだけ意識し、良い意味でのプレッシャーをかけるのです。
ただどれだけ頑張っても、つい自分で仕事を頑張ってしまい、部下に任せられない上司がいます。そこで今回は、「上司が部下に仕事を任せることの重要性とそのポイント」について解説していきます。
一度に指導できる部下の数は限られる
課長や部長などの管理職に就くと、企業の規模によっては数十人以上の部下を抱えることになります。このようなポジションに就いたとき、多くの人は「自分が、部下一人ずつの仕事をしっかりとチェックし、それぞれに的確な指示を出そう」と考えがちです。
しかし、そのような考え方で部下を指導しようとした場合、部下をまとめるどころか組織が正常に機能しづらくなってしまいます。
丁寧に指導するべき部下の数が増えれば増えるほど、部下の仕事や行動を隅々までチェックすることが難しくなるからです。
指導する部下の数が多い場合、管理しようとすると上司は「部下からの報告をもとに仕事の状況を把握する」という状況に陥りやすくなるといえます。
ただ、部下からの報告だけで仕事の状況を判断するのはとても危険です。部下は上司よりも立場が弱く、上司の機嫌が良くなりそうな結果だけを報告しようとする傾向にあるからです。
例えば、一般社員が仕事で何らかのミスをしてしまったとき、そのほとんどは自分の上司から叱責を受けることを想像します。さらに、人事評価を下げられることや同僚に陰口を叩かれることなども考えてしまうでしょう。
そのため、「上司の機嫌を損ねるような報告はできるだけ避けたい。上司が喜びそうな報告だけをしよう」と考えてしまう従業員はどうしても多くなります。
それではこうした状況を避け、管理職としてたくさんの部下を指導することになった場合、一体どのようにすれば組織をうまくまとめることができるのでしょうか。
部下に権限を与え、仕事を任せる
結局のところ、多くの部下を抱えて指導する立場になった場合、部下一人一人の仕事ぶりを一人の上司だけで完全に把握するのは不可能です。そこで、仕事の進行に必要な権限をそれぞれの部下に与えて業務を任せ、上司は部下の仕事にできるだけ口を挟まないようにすることが重要になります。
部下に権限を与えたうえで仕事を任せることで、部下は自分がやりやすいように仕事を進められるようになります。これによって、部下が仕事を遂行するときの効率が高まるようになります。
また部下に仕事の権限を与えているため、上司は部下に対して自ら積極的に指導せずに済むようになります。これにより、上司にとっては部下の管理や仕事の把握がよりやりやすくなります。
・上司と部下で役割分担することの重要性
部下に権限を与えたうえで仕事を任せることは、仕事の質を高めるためにも重要です。上司が口を挟みながら部下に仕事をさせるよりも、部下に権限を与えて仕事を任せたほうが仕事内容をより洗練させていくことができます。
有名なことわざの1つとして、「餅は餅屋」というものがあります。このことわざの意味は、「どのような分野であっても、その道の専門家に任せることが最も良く、素人は専門家にはかなわない」というものです。これには、上司として部下を指導する立場になったときにもあてはまります。
一人の社員が同じ仕事を一定期間担当し続けた場合、その従業員は自分の仕事に関する知識や経験を身につけていきます。一方で管理職の場合、かつては大きな成果を出した人であっても、昔に自分が担当していた仕事についての知識や経験は薄れてしまいます。
そのため、部下が担当する仕事を最も深く理解しているのは、その仕事を現在担当している部下本人だといえます。部下は自分が担当する仕事について「どのように遂行するべきか」「どのような作業が不要であるか」などを、自身の上司よりも的確に判断することができるのです。
そのため上司が部下の仕事に口出しするのをやめ、部下に権限を与えたうえで仕事を任せるようにするほど、できあがる製品の質がさらに高くなったり、仕事内容がより洗練されたものになったりします。
決定権を与え、プレッシャーをかける重要性
なお、それぞれの仕事における決定権は担当となる部下一人ずつ与えましょう。決定権を与えるからこそ、部下は主体的に動くようになります。これは、良い意味でのプレッシャーを与えているといえます。
プレッシャーというと、ネガティブな言葉のように捉えられます。ただ、社員が輝いて働いている組織であるほど、上司は多くのプレッシャーをかけています。プレッシャーをかけるというのは、その人の可能性を信じているからこそ実行する行為なのです。
例えば、部下が会議で発表するための資料を作成してきたとします。ただ、その内容を見たところ、明らかに一定のレベルに達していません。このとき、どのような声をかけるでしょうか。
「その人の可能性はまだ無限大であり、伸びしろがある」と本気で考えている場合、「もっと、こう考えれば良い資料になる。お前はよりレベルの高い資料を作れるはずだ」と言って突き返します。そうして、数日後に資料をもってこさせ、それでもまだ不十分な場合は「お前の実力はこんなものではない」と言ってやり直しを命じます。
これが、プレッシャーです。自分が期待されていると感じた社員は、自らの頭で考えることで主体的に動くようになります。
・単に叱るとストレスを与える
一方、単にストレスを与える場合では、「何を考えているのか」「まったく話にならない」と相手を罵倒します。多くの組織はこのような現状ですが、ストレスを与えられた社員はやる気をなくします。
プレッシャーというのは、従業員の心を鍛えます。その人の可能性を信じているからこそ、そのような言葉がでるのでストレスになることはありません。罵倒によってストレスを与えることと、相手に期待を寄せることによるプレッシャーはまったく異なるのです。
また、上司が部下に決定権を与える際には、必ず「誰が、何について、どの範囲まで決めることができるのか」をはっきりとさせなければいけません。これが行えていないと仕事を任せる上司の方も、仕事を任される部下の方も、それぞれ自分の仕事に集中できなくなってしまいます。
例えば、自動車の製造工場であれば、自動車の組み立てに必要な部品を現場の部下の権限だけで発注できるようにします。ただ自動車を何台製造するのかについては、上司、あるいは別の部下が把握しておくようにします。
このような形で各業務での権限の所在が明確化されていれば、各々が自分の仕事に注力できるようになります。その結果、仕事の効率や質が良くなり、自社の業績をさらに高められます。
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上司が部下の権限を脅かせないように決めておく
ただ部下に仕事の権限を与える場合、必ず明確にしておくべきことがあります。まず、「上司が部下の決定を覆すことができない」ようにしなければいけません。
部下の権限があいまいだと、部下が仕事の進め方を決めるとき、いちいち上司に相談を持ち掛けなければならなくなります。その結果、上司が仕事を進める時間も、部下が仕事を進める時間も大きく削られてしまいます。
また従業員によっては常に上司のご機嫌取りをするようになり、先に述べたような「自分にとって不都合な報告をしないようになる」という恐れもあります。
そうならないためにも、上司が部下に権限を与える場合、「部下の決定に対して上司は口出しできない」というルールを明確に定めるようにしましょう。これにより、部下は自主的に物事を決められるようになり、質の高い業務を遂行できるようになります。
任せることと丸投げすることは全く別物である
ここまで、部下に仕事を任せることについて述べてきましたが、「仕事を任せること」は「仕事を丸投げすること」とは全く異なります。
丸投げとは、「権限の範囲を明確にせず、指示自体もあいまいな状態で物事を他人にゆだねること」を指します。仕事を部下に丸投げしてしまった場合、部下はどのように仕事を進めれば良いかが判断できなくなります。そうして部下は正常に仕事を進められなくなり、自身の業務で良い成果を出せなくなってしまう可能性が高いです。
こうした事態を避けるため、上司は部下に対して仕事を丸投げしてはいけません。要するに、部下に権限を与えたうえで、「何をどのようにすべきか」について明確に指示を下す必要があります。
例えば、部下にプレゼンの資料作りを任せる場合、「今度プレゼンをやるから、そのときに使う資料を適当に作っておいて」と言って丸投げしてはいけません。
- どのような資料を作るべきか
- いつまでに資料を作るべきか
- 資料には誰が目を通すのか
- どの程度の質の資料を作るべきか
これらを明確に指示したうえで、資料作りの権限を与える必要があります。
部下に対して権限を与えたうえで仕事を任せる際に、具体的な指示を明らかにしておくことにより、部下は「どのような仕事をいつまでに完了すれば良いか」を、はっきり認識できるようになります。これにより、部下はより高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。
それでは、何を部下に指示するべきなのか、さらに具体的に確認していきましょう。部下に仕事を任せる際には「期限」「全体像(背景と目的)」「求められる質」について伝えましょう。
これを行うことで、部下は上司から任された仕事に対して、「どのように進めれば良いのか」を判断できるようになります。
仕事の期限を伝える
部下に仕事の期限を伝達しておくことで、部下は「いつまでに終わらせる必要のある仕事なのか」が分かります。より具体的にいうと、部下が指示された仕事について「しっかりと時間をかけて進めて良いのか」、あるいは「できるだけ早く進めるべきなのか」を理解できるようになります。
また、仕事の期限について伝えるときには、その期限を部下が忘れないように配慮する必要があります。例えば、「仕事で使うホワイトボードや壁掛けカレンダーに仕事の期限を記載しておく」「仕事の進捗具合について、何日かおきに部下に確認する」といった方法を取るようにするのです。
そうすることで、「部下が仕事の期限を忘れてしまう」という事態を避けられるようになります。さらに、仕事を指示した上司自身も、仕事の期限を忘れずに済みます。
仕事の全体像(背景と目的)を伝える
部下に仕事を任せる際には、その仕事の全体像(背景と目的)を伝えておくことも重要です。より具体的にいうと、「どういう目的があって、その仕事を行うのか」「誰のためにその仕事を行うのか」「その仕事を誰がチェックするのか」などまで、部下に伝達する必要があるのです。
例えば、あなたがダイエット商品を作る会社を運営しており、「あなたがモニターさんに自社商品の説明をする資料」について、その作成を部下に任せることになったとします。
このとき、部下に対して以下のことを伝えます。
- 何の説明をするための資料を作るのか
- その説明を聞く対象者は誰なのか
- その説明をするのは誰なのか
こうした仕事の全体像を伝えるようにします。そうすることで部下は自分なりに試行錯誤し、「自社で集めたモニターに対して、上司(あなた)が自社商品を説明するのに適した資料」を作ってくれるようになります。
もしこのとき、仕事についての全体像をしっかりと伝えていなかった場合、部下はどのような資料を作れば良いのか判断できません。この場合、新しい商品とは関係ない説明が盛り込まれた資料を作ったり、モニターに理解してもらえない内容の資料を作成したりする恐れがあります。
このような事態にならないためにも、部下に仕事を任せるときには必ず「仕事の全体像」を明確に伝えなければいけません。
仕事に求められる質を伝える
また部下に仕事を指示する際には、その仕事に対して「どのくらいの質が求められるのか」についてもはっきりと伝えておきましょう。
例えば、あなたが他社でプレゼンをすることになり、そのときの原稿を部下に任せるとします。このとき、あなたが「自分でも原稿のチェックと推敲をするので、とりあえず下書き程度の原稿を短時間で作ってほしい」と考えて、部下に伝えるようにします。
そうすれば、部下はあなたが想定しているような「下書きレベルの原稿」をすばやく作成し、あなたに届けてくれるようになります。
逆に、あなたが「自分では原稿をチェックせずにそのままプレゼンで使うので、そのつもりでしっかりとした原稿を作ってほしい」という場合、その要望を部下に伝えることで、部下は「本番用の原稿」を作ってくれるようになります。
・重視するべきことを伝える
これについては、要は「何を重視するべきなのか」を伝えるのと意味は同じです。最も優先するべきポイントを伝えるのです。
例えば、あなたが洗濯機を作る会社を経営しているとき、あなたが高性能の洗濯機を求めるのであれば、部下に「とにかく性能面を優先させて洗濯機を開発すること」を指示するようにします。
また、あなたが「低コストの洗濯機」を求めている場合には、部下に「できるだけ安く制作できる洗濯機を開発すること」を指示する必要があります。
このように、任せる仕事において優先すべき要素の順番を示すことで、部下は迷うことなく上司の指示通りに動けるようになります。
部下の失敗は、最終的には上司の責任である
なお、部下に責任をもたせるとはいっても、部下が仕事で結果を出せなかったりミスを犯したりした場合、その責任は最終的に上司が取るようにしなければなりません。
そうすることで、部下は「自分が成果を出せなかったり失敗を犯したりすれば、自分ではなく上司が責任を問われる。自分のせいで上司に迷惑はかけられないから、気を付けて仕事を進めよう」と考えてくれるようになります。
また上司の方も、「部下の失敗は、最終的にはすべて上司である自分の責任だ。部下が仕事でミスを犯さないよう仕組化を検討しよう」と考えるようになります。
部下を抱える立場の人によっては、「自分が関わっていた仕事での責任を取るのは分かるけど、自分が知らないところで自分の部下が犯したミスについては責任を取りたくない」と考える人がいるかもしれません。
しかし、このような考え方はビジネスでは通用しません。部下に結果を出させ、失敗を犯さないようにさせることは上司の仕事だからです。
上司として部下を束ねる立場になったときには、必ず「部下の失敗は、最終的にはすべて上司の責任である」と認識しなければいけません。そうして部下に権限を与えたうえで仕事を任せつつも、定期的に部下の様子を見て声を掛けるようにしましょう。
社員の罵倒をやめ、褒めて育てると優秀社員に変貌する
当然、このときは部下が失敗しても罵倒をしてはいけません。ただ社長・役員や部長などの幹部職の中には、会社の利益が減ったり商品の売り上げが落ちたりしたとき、社員に対して「しっかりしろ」や「まじめにやれ」などと言い放ち、社員を徹底的にこき下ろす人がいます。
この場合、罵倒された社員は「自分はまじめに仕事ができていないのか」「自分はしっかりした人間ではない」と考えてしまいます。そうして従業員は委縮し、自由な決定をできず今までよりも仕事の能率が落ちてしまったり、ミスをしやすくなったりしてしまいます。
そうして幹部職と一般社員との間に壁が生じてしまい、会社の中の空気が一気に悪くなります。最悪の場合、その幹部は多くの従業員から愛想を尽かされます。その結果、会社は倒産へと歩み始めます。
会社の幹部が感情に任せて社員を一方的に罵倒すると、会社の状況はさらに悪化します。つまり、従業員をきつく叱責しても、何もいいことがありません。
社員がミスを犯した場合には、その状況を作り出した幹部(上司)に責任があります。そして、上司が感情的にならず部下を信じるからこそ、社員は主体的に動いてくれるようになります。人に仕事を任せるとは、すべての失敗を含めて受け入れなければいけないのです。
部下にはできるだけ仕事を任せる
上司として部下を抱える立場になったとき、自分一人で大量の仕事を抱え込んではいけません。自分が抱えている仕事をできるだけ部下に任せるように留意する必要があります。どれだけ優秀な人間であったとしても、一人で片付けられる仕事の量はそれほど多くはないからです。
また上司の立場になった人の中には、「部下があまり仕事をしてくれない」と悩むことがあります。これは、上司であるあなたが部下にほとんど仕事を与えていないために起こります。
そこで、部下にできるだけ決定権を委譲しプレッシャーを与え、主体的に動くように仕向けましょう。もちろん仕事を丸投げするのではなく、的確な指示を出しながらも思い通りの結果を生み出すように仕向けるのです。
こうして組織をまとめ上げていくのが真のリーダーだといえます。できるだけ部下を信じ、人に仕事を投げるからこそ、ビジネスで優れた成果を生み出せるようになるのです。
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