サラリーマンが会社で働いていると、いずれ管理職と呼ばれるポジションに就きます。管理職とは「部下を持ち、人を管理する職務」のことです。
これまでの管理される立場から他人を管理する立場に変わるため、管理職になることはサラリーマン人生における大きな変化です。
しかしその転換期では「実際に管理職になったが、どうすれば良いマネージャーになれるかが分からない」「良いマネージャーになろうと努力しているのだが、間違った方向に進んでいるのでは」と悩む人は多いです。
部下のマネジメントを行うとき、陥りやすい間違いが存在します。そこで、あなたが良いマネージャーを目指すときに犯しやすい間違いについて学び、人をマネジメントする役割や部下の正しい教育法について解説していきます。
「人をマネジメントする」とは何を意味するのか?
そもそも「人をマネジメントする」とは、何を意味することなのでしょうか。このときは「チームをゼロから作り上げ、チームの構成員をやる気に満ち溢れさせ、チームの雰囲気を良くする」ことだと考える人もいるでしょう。しかし、そのようなことを実践する必要はありません。
マネジメントとは会社の資産であるヒト・モノ・カネを管理することで、会社の収益を最大化させることを目的とした行為です。
ヒトを管理する場合も同じで、最終目的は組織の仕事の成果を最大化させることです。決して、組織の人が気持ちよく働くことではありません。
もちろん組織の人が気持ちよく働けていて成果が出る場合もあります。しかしプレッシャーがなく弛んでいる組織では、従業員はゆったりと仕事をしているだけの状態なので効率的に成果が出ることはありません。
「気持ち良く働く」というのは抽象的な表現であり、場合によっては「プレッシャー無く緩んだ組織」という誤解に繋がる可能性があります。
逆にチーム仲は険悪だが、結果が出る場合もあります。内部の対立構造がうまく機能して、成果が出るパターンです。例えば、「A課長とB課長はいつもけんかをしているが、そのおかげで部全体の緊張感が保たれて全員がよく働く」というケースです。
このように人をマネジメントすることについて、抽象的なイメージだけを持って仕事をすると間違いを犯す可能性があります。繰り返しますが、「人を管理することで会社の収益を最大化させる」という点を理解しなければいけません。
自分がチームをゼロから作るのは間違い
ここまでを理解したうえで、新任の管理職が起こしやすいミスを確認していきます。マネージャーになると、「自分がその組織をゼロから作らなければならない」という勘違いをする人がいます。しかし、その必要はありません。
あなたが起業家なら、人を集めるところから始めなければなりません。人材を見抜くのは容易ではないですが、ゼロベースの状態から構築する必要があります。
しかし、サラリーマンであるなら既に組織の土台はできています。会社のレベルに合った人材がいて、組織目標を達成するために必要な人数・人材が与えられる場合がほとんどです。あなたは組織の問題を見つけて改善し、上手に機能させればいいのです。
例えるならば、マネージャーとは車の整備士と同じです。与えられた車のどこに欠陥があるのかを発見し、対策として潤滑油を入れたり、パーツを付け替えたりします。色々と選択肢がある中で、どう修理すれば性能を最大限発揮させて、最大馬力で走ることができるのかを見つけるのです。
つまり必要な部品・パーツや道具は基本的に揃っていて、あとはどう修理すれば良いかを探るのです。決して最初から車を作る必要はありません。
・マネージャーが不要な組織もある
また、マネジメントがそもそも不要の場合もあります。つまり運がよければ、既に完璧な組織が構築されており、何も仕事をしなくとも勝手に成果が上がるようになっているのです。
特にワンマン経営の中小企業だと起こりやすいですが、カリスマ経営者が営業や人材採用を含めてすべて段取りをしてくれるため、管理職サラリーマンの立場であっても特にマネジメントの必要がありません。
ただ、その場合はマネージャーとしての能力を発揮する機会がなく、単に肩書だけとなります。
部下をやる気にさせるマネジメントは不要
また、良いマネージャーになるために「部下をやる気にさせなければいけない」と考えることもありますが、これも間違いです。必ずしも部下全員がやる気になっていなくても、仕事で結果が出るからです。
マネジメントの目的は、あくまでも「チームとしての成果を最大限発揮させること」であり、「部下のやる気を引き出すこと」と勘違いしてはいけません。
やる気が無さそうに見えても、与えられた仕事はしっかりやっている人はたくさんいます。そこでやる気を全面に出させるのではなく、その人の持つ能力を最大限に引き出すことがマネージャーに求められています。
・部下の機嫌を取ることは間違い
そのため当然ながら、「部下の機嫌をとること」はマネジメントとはいえません。例えば、iPhoneを開発したことで知られるスティーブ・ジョブズは部下を罵倒したことでよく知られています。
しかし彼は、MacやiPhoneを世に出しIT社会の発展に大きく貢献したアップル社を生み出しました。また、世界で大人気となった初の3Dアニメーション「トイストーリー」を製作したピクサー社などの一大企業を残しているのです。「とにかく部下を行動させる」というやり方も1つのマネジメントといえるのです。
あるいは、あえて部下へ厳しい言葉を投げかけるのも1つの戦略です。「見返したい」という気持ちをバネにする人には特に効果的です。
つまり人によって、「仕事を能動的にやらせるための最適な方法」が違っています。そこで重要になるのが、相手の反応を予測することです。
それぞれ人には得意・不得意があり、またその性格に合わせて対応を変えることが上手な部下管理法となります。
全員を満足させることはできない
さらにいうと、マネジメントの基本はそれぞれの部下に適切な業務を与えることになります。各自の能力に合った業務を与えることで、集団としての仕事の成果が最大化されます。
しかし、それだけでは部下全員を満足させることはできないと考えるべきです。どんな仕事を与えても、不満をもらす人間がいます。そういった人には別のアプローチを検討する必要があります。
例えば、いつも文句ばかりを言っているAさんがいるとします。Aさんにとって「満足の指標」は仕事の内容ではなく、「上司にどれだけケアされながら仕事を進められるか」という点です。この場合、Aさんには細かく仕事の状況を聞いてやることが対処方法になります。
仕事を進める上で同じ方法を試しているだけだと、「誰もが納得する」「皆に好かれる」というようなやり方は存在しません。率いる部下が多ければ多いほど、「同一のやり方では全員を満足させることはできない」ことをマネージャーは理解するべきです。
そこで、あなたの有限の時間を使って組織の仕事の成果を最大化させるためには、「誰にどうアプローチするのがいいかを考える」ことが重要になります。
ただ、このときは優先順位を考えましょう。例えば、文句ばかり言うAさんとBさんの二人が部下にいたとします。同じケアをするにしても、あなたの有限な時間を使うべきなのは二人のうち能力の高い方です。これが現実的な人のマネジメント法です。
管理職マネージャーは優先順位を付けなければいけません。そうしたとき、やはり最大の結果を生み出せるように動くのが役割といえます。
「チームをいい雰囲気にしなければいけない」という勘違い
また、他にマネジメントでよくある勘違いとして「チームを良い雰囲気にしなければいけない」こともあげられます。
そもそも良い雰囲気とは何でしょうか。部下が仲良く楽しんで仕事をしている様子をイメージするでしょうか。しかし、実際はそのような状態になることはありません。
ビジネスである以上、お互いの文句や口論があって当然です。むしろ対立構造からより良い組織ができると考えるべきです。対立関係では、ライバル意識をうまく使えば大きな成果を出すことにも繋がります。
例えば、若手のホープのA君とB君は仲が悪いとします。このとき、あなたはこの対立構造に目をつけるべきです。あなたの組織の目玉プロジェクトについて、プレゼンを二人に準備させて競わせ、組織メンバーに評価させるのです。
勝った方は自信をつけて、本番に良いプレゼンができます。負けた方は「次こそ」と闘志を燃やして、次の機会に向けて努力を積むようになります。その二人の競う様子は、組織メンバーにも良い影響を与えます。
人間というのは「敵がいて初めてやる気が出る」という性質があります。これに気付くことができれば、人を使って大きな成果を出すことができます。
実際のところ、「とりあえず頑張ってね!」と軽くいわれて、やる気の出る人間はいません。それよりも、「ライバルのB君は今月5件を成約する予定だから、君はあと3件ほど契約を増やせば今回の社長賞を狙えるよ」と言われたほうが行動できます。敵の像を作るからこそ士気が高まるのです。
人を動かして最大の結果を出すために動く
このように人をマネジメントすることは、考え方を間違えると大きなミスに繋がります。あくまで成果を出すという観点で「部下をどのように扱えば最大の効果を生み出すのか」を優先する必要があるのです。
したがって、それぞれの人物や人間関係を深く理解できている人は、優れたマネージャーになることができるといえるでしょう。
特にサラリーマン管理職であるなら、組織をゼロから構築する必要はないですし、部下をやる気にさせるように頑張る必要もありません。むしろ、必要なものはすべてそろっています。そうした中で部下の適性を見極め、優先順位を決定したうえで、どのように人を動かせばいいのかを考えましょう。
人をマネジメントするとき、仕事である以上は部下のやる気や雰囲気よりも成果に着目しましょう。「人がどういうときに積極的に行動し、成果を出すのか」を意識しながらマネージャーとして活躍するといいです。