会社の収益性を見ることはとても重要です。これについては決算書を分析することで、「その会社が儲かっているかどうか」を確認できます。経営者だけでなく、株主や銀行などにとっても収益性の確認は必要です。
ただ、企業によって収益性の度合いに違いがあります。もっといえば、効率よく稼いでいるかどうかが異なります。
例えば、日ごろから運動しているスポーツマンであれば、少し動いただけで大きな成果を出すことができます。しかし体重の重い太った人であれば、どれだけ頑張ってもスポーツで成果を出すのは難しいです。
このとき「頑張った」という過程や気持ちだけではダメです。努力に対して、どれだけ成果を出したのかが実社会では求められます。スポーツであれ大学受験であれ、たとえ努力量が少なかったとしても、大きな成果を出した人が評価されます。
当然ながら、これと同じことが企業でもいえます。こうした指標は決算書に表れますが、どのように利益を確認すればいいのかについて解説していきます。
利益率には種類がある
会社の収益性を見る中でも利益率の確認は基本です。利益率とは、全体の売上の中で利益が出ている割合を指します。
例えば、利益率1%であると、100万円の売上を出しても1万円しか儲かっていないことになります。一方、利益率50%であると50万円も稼いでいます。売上は同じであったとしても、利益率が違えば儲けの額は大幅に違ってきます。
このとき、利益には多くの種類があります。これは、利益の段階がそれぞれ異なるからです。例えば、売上から仕入れを差し引いた「売上総利益(粗利)」、売上総利益から従業員の給料や経費などを差し引いた「営業利益(本業の儲け)」などが知られています。
これと同じように、利益率にも種類があります。主な利益率は以下の3つです。
- 売上総利益率(粗利率) = 売上総利益 ÷ 売上高 × 100
- 営業利益率 = 営業利益 ÷ 売上高 × 100
- 当期純利益率 = 当期純利益 ÷ 売上高 × 100
この中でも、最も重要な要素が営業利益率です。本業の儲けである営業利益が重要視されるのと同じように、主なビジネスでどれだけ効率よく稼いでいるかどうかが最も大切なのです。
通常、営業利益率は高いほど良いとされています。いくら売り上げを伸ばしても、利益が少なければビジネスを行う意味がありません。そこで売上だけでなく営業利益率を上げることで、手元に残すお金を多くするように努力する必要があります。
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美容室と喫茶店の営業利益率をみる
そこで実際に、世の中のビジネスを確認しながら営業利益率をみていきましょう。ここでは、例として美容室と喫茶店のビジネスを挙げます(あくまでも想像上の話であり、実際の数値ではありません)。
例えば、「売上400万円の美容室」と「売上800万円の喫茶店」ががあったとします。普通に考えれば喫茶店のほうが、売上が多くて素晴らしいように思います。ただ、ビジネスでは売上ではなく営業利益が重要なので、その中身まで確認しなければいけません。
・原価率の高い喫茶店
まず、売上の中で商品の仕入れにかかるお金を原価といいます。このときの割合が原価率です。例えば喫茶店であると、コーヒーや食事を提供するための材料を仕入れなければいけません。ビジネスを行う上で必須となる仕入れの割合が原価率なのです。
全体の売上から原価率を差し引くと、売上総利益率(粗利率)を算出できます。喫茶店の原価率が40%であるとすると、売上総利益率は「100% - 40%(原価率) = 60%」となります。
一方、美容室では仕入れがほとんどありません。ハサミさえあれば、その人の腕ひとつだけでビジネスができます。原価(仕入れ)がゼロなので、原価率もゼロです。技術だけで勝負する場合、売上総利益率はほぼ100%です。
・ビジネスでは販管費が発生する
ただ、商売で必要なのは原価だけではありません。そこから建物の賃料や人件費などの諸経費が必要になります。美容室であると、オシャレな外観が必要です。髪を染めるときなど、専用の高価な機械も購入しなければなりません。
内装費が高くなるだけでなく、広告宣伝費にも注ぎ込まなければいけないため、原価以外の費用が必要になります。このように、ビジネスを行う上で必要になる販売促進のお金を販管費(営業経費)といいます。
※売上に占める販管費の割合を販管費率といいます
仮に美容室での販管費が60%であり、喫茶店の販管費が30%だとします。このとき、営業利益率は下図のようになります。
最初の売上だけをみると、その差は倍もあります。ただ、その中身まで見ると、その企業本来の姿が見えてきます。今回では、売上や営業利益の額は美容室の方が少ないものの、喫茶店よりも効率的に利益を生み出せていることが分かります。
- 美容室:営業利益率40%
- 喫茶店:営業利益率30%
なお、営業利益というのは、企業が加えた付加価値だと考えてください。業界によって付加価値の度合いが異なるため、営業利益率も大きく違ってきます。
メーカーであれば、独自の製品を開発して差別化を行い、他社とは違う付加価値の高い製品を生み出すことが使命です。そのため、営業利益率は比較的高い傾向にあります。
一方、量販店などの小売業は営業利益率が低くなりがちです。売っている製品はどれも同じであり、あとは値段や商品説明くらいしか差別化ができません。そのため利益は薄いですが、大量に売ることで利益を積み重ねていくのが量販店の戦略です。この場合、営業利益率は必然的に低くなります。
このように考えると、その企業が取る戦略によって営業利益率は大きく変動することが分かります。営業利益率が高い企業は、それだけ多くの付加価値をつけていると考えましょう。
総資産利益率(ROA)と自己資本利益率(ROE)の概念
ここまでを理解すれば、会計などで頻繁に用いられる総資産利益率(ROA)と自己資本利益率(ROE)の概念について内容が分かるようになります。一見すると難しそうですが、利益について正しく学べばそこまで難しくはありません。
今まで説明した通り、ビジネスで重要なのは売上ではありません。売上は単なる指標でしかなく、それよりも利益の方が重要視されます。たとえ100万円の売上があったとしても、経費で99万円を使っていれば1万円しか儲かっていません。これでは、事業を続けても体力が減っていくだけです。
そこでビジネスでは、収益性を考えなければいけません。単に売上を伸ばすのではなく、適切に利益を出せるかどうかまで測るのです。このとき、「どれだけ有効に資源を活用して収益を生み出したか」を表す指標として総資産利益率(ROA)や自己資本利益率(ROE)があります。
総資産利益率(ROA)の考え方
利益の中でも、本業での儲けを示す営業利益が最も重要なことは説明した通りです。営業利益は大きいほど良いとされているため、売上を伸ばしながら経費を抑えて効率よく稼がなければいけません。
ただ、単純に営業利益の額で経営効率を測ることはできません。会社によって規模が違うからです。大きな設備をもっている会社があれば、ベンチャーとして小さい規模で活動している会社があります。これらは簡単には比べられません。
例えば、小学生と高校生がマラソンで勝負するとき、タイムだけで判断してはいけません。当然ながら、両者は体の大きさや筋肉量などがまったく異なります。本来は、その人の体格を考慮した上で測定しなければいけません。
つまり高校生であれば、小学生と比べてはいけないのです。同じ高校生と比べて「その人のタイムがどうであるか」を確認して、ようやく運動能力が分かります。企業でもこれと同じことをしますが、企業にとって「体格」に当たるものは「資産」となります。
企業は工場やビルなどの資産を保有しています。そこで、これらの資産を有効に活用しているかを調べます。要は、保有する資産に対して、どれだけ営業利益を生み出したかを測るのです。
このように、利益に対する資産の割合をみた指標を総資産利益率(ROA)といいます。
- 総資産利益率(ROA) = 利益 ÷ 資産 × 100
例えば、営業利益が同じ100万円である「資産400万円の美容室」と「資産800万円の喫茶店」があったとします。このときの総資産利益率(ROA)はそれぞれ「美容室:ROA=25%」「喫茶店:ROA=12.5%」となります。
つまり、美容室の方が効率よく利益を生み出しています。もし、美容室が喫茶店と同じように資産が800万円あれば、倍となる200万円の営業利益を得ていたと予想できます。資産は多ければ良いのではなく、それらを有効活用しなければいけません。
自己資本利益率(ROE)の考え方
先ほどの総資産利益率(ROA)は「資産」での話でした。ただ、株主にとってみれば、出資した額に対してどれだけの利益を出したのかが気になります。そこで、純資産に対してどれだけの利益を出したかを示す指標として自己資本利益率(ROE)があります。
すべての資産は、「他人から借りてきたお金(負債:借金)」と「自分のお金(純資産:自己資本)」の2つに分けられます。
総資産利益率(ROA)は総資産(負債+純資産)に対する営業利益の割合をみていました。一方、自己資本利益率(ROE)は純資産(自己資本)に対する営業利益の割合を算出します。
※株主によって投資されたお金は「返す必要のないお金」に分類されるため、純資産(自己資本)として考えます。
「投資したお金をどれだけ利益に変えたのか」を表す指標が自己資本利益率(ROE)であるため、この数字は投資家(株主)に重要視されます。計算式は以下の通りです。
- 自己資本利益率(ROE) = 利益 ÷ 純資産 × 100
どうせ投資するのであれば、有効に活用してくれる企業へ出資したいと誰でも思います。自己資本利益率(ROE)が低ければ、投資家からのお金が集まりにくくなりますし、経営効率の悪い会社だと判断されてしまいます。
ビジネスでは「少ない資産や自己資本で多くの売上や利益を出す」ことが重要です。そのため、あらゆる業界でROAやROEを高めることが必須であるといえます。
・売上と資産の割合を示す総資産回転率
参考までに、利益を出すためには売上がなければいけません。そこで、売上の効率を示す指標も存在します。これを総資産回転率といいます。資産に対して、どれだけの売り上げを出したかを表します。
- 総資産回転率 = 売上 ÷ 資産 × 100
ROAやROEは頻繁に活用されますが、総資産回転率についてもついでに理解しておくといいです。
利益の概念を知り、決算書から会社の健全性を読み解く
決算書を見れば会社の健全性が見えてきます。そうしたとき、どれだけ利益を稼いでいるのかを把握することは非常に重要です。
ビジネスにおいて、売上規模はどうでもいいです。売上が大きくても、営業利益率が悪ければビジネスとして微妙だといえます。付加価値を付けるほど営業利益率が向上するため、この数値を上げる企業努力が必須となります。
また、これらの考え方を理解すれば総資産利益率(ROA)と自己資本利益率(ROE)の概念についても分かるようになります。どれだけ効率的に利益を生み出しているのかを図る指標ですが、「保有資産」「自己資本」に対する利益の割合から算出していきます。
そこまで考え方は難しくないため、慣れればすぐに決算書から会社の健全性を把握できるようになります。そうして、ビジネスでの経営戦略に役立てていくようにしましょう。
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