経営者を含め、リーダーとして働く場合は自分一人で頑張ろうとする人がほとんどです。ただ、リーダーとして機能するためには必ず右腕(ブレーン)と呼ばれる人間の存在が重要になります。右腕となる人物と共にミッションやビジョンを共有していくことによって、ようやく組織が円滑にまわるようになります。
リーダーにとって最も重要な仕事の一つとして、ミッションやビジョンをメンバーと共有することが挙げられます。「何のためにその仕事を行うのか」という目的を部下に教えることにより、さらにメンバーがやる気をもって動くように仕向けるのです。
またこれを一人で行うのではなく、ブレーンと共に行うといいです。
ただ、経営者はどのようにして右腕を見つければいいのでしょうか。また、ミッションを伝えるにはどう考えればいいのでしょうか。ここでは「ブレーンを見つけ、さらには主体的な組織に変貌するために必要な考え方」について解説していきます。
経営者の右腕(ブレイン・懐型案)になれる人間の条件
経営を継続するときに自分一人だけで頑張ってはいけません。助けてくれる人の存在が重要になります。
一般的に「経営者として成功するためには、その隣に右腕と呼ばれるような素晴らしい人物の存在が必要」ということはよく言われます。右腕は社長の脳として判断されることから、ブレーンともいわれます。場合によっては、懐刀とも表現されます。
右腕(ブレーン・懐刀)がいることにより、経営者は自由に動くことができ、多くのネタを仕入れることができるようになります。
それでは、どのような人が経営者にとっての右腕としてふさわしいのでしょうか。これには、いくつか条件があります。具体的には、以下のような人物を指します。
- 自分での独立を考えない
- 経営者の考えを汲み取れる
- サポート役に徹することができる
適切な条件に合致する人を右腕として据えなければ、経営者は後で足元をすくわれてしまいます。そのため、慎重に人を選ばなければいけません。
優秀な人は独立を考え、右腕(ブレーン)ではない
何人かの部下を抱えるようになると、その中には必ず高いパフォーマンスを示す優秀な人が現れるようになります。仕事をさせれば一流であるし、人付き合いも良好です。上昇志向が強く、何でもどん欲に吸収しようとします。そのような人物を見ると、ついつい自分の右腕として頑張ってもらうように手をかけようと考えてしまいます。
ただ、本当の意味で優秀な人を右腕として置くと、後で後悔することになります。その理由は単純であり、後で独立されるからです。
まったく別分野での独立など、自分と関係ない市場なら問題ありませんが、よくあるのは「ほぼ同じノウハウで独立する」というケースです。同じ市場で争い、さらには自社のお客さんをそのままもっていくパターンが多いです。
優秀な人であるほど、「自分の考えている通りにビジネスを動かしたい」「自分が動けば、より素晴らしいサービスを提供できる」と考えているものです。
また大企業の部長よりも、たとえ小さい会社であっても代表取締役社長という肩書のほうが大きな人脈を築けます。会社組織の中で留まれば、出世も昇給も遅いです。
こうしたことを考えると、自ら独立してビジネスを動かしたほうが圧倒的にスピードは速いです。そのため、優秀な人であるほど独立を考えます。これについて、いくら引き留めても無意味です。「優秀な人であるほど、会社を去っていく」という事実を経営者は認識しなければいけません。
よく、「右腕だと思っていた人が独立してしまった」と嘆く経営者は多いです。ただ、それは経営者が懐刀だと勘違いしていただけであり、その人は最初から右腕としての器をもっていなかったといえます。もっといえば、経営者の単なる判断ミスです。
ブレーン・懐刀になる存在は、経営者の気持ちを汲み取る
一方で、経営者の右腕となる人も同じように仕事ができて優秀である必要があります。ただ、優秀ではあるものの、「上昇志向や独立志向はまったくない」という人でなければいけません。
つまり、自分で何か大きな仕事を成し遂げようという野心をもっている人よりも、経営者の気持ちを汲み取って社内に伝えることのできる人が右腕だといえます。
そういう意味では、右腕と呼ばれる人は社長というポストには向いていないかもしれません。どちらかというと、仕事はできるものの、上の立場にいる人間が考えることを忠実に再現するサラリーマンが右腕に向いています。
ただ、単なるサラリーマンではなく、右腕という人物は経営者の発言を自分なりに解釈し、より高いパフォーマンスを生み出すエリートサラリーマンなのです。
また経営者の元にはさまざまな情報が流れ込んでくるため、どれが必要な情報なのかを精査したり、経営者の考えを浸透させたりする人間が必ず必要になります。こうした役割を果たす右腕の存在があるからこそ、社長は事業拡大に集中できるのです。
ブレインは社長のサポート役である
右腕の存在というのは、経営者にとって欠かせない存在です。ただ、右腕は自分で新たなビジネスを創出することには向いてなく、あくまでもサポート役です。
そのため、次期社長には「支えてくれた右腕」を指名するのではなく、独立志向の強い人物を指名する必要があります。
そうした「上昇志向・独立志向の高い人」を次期社長に置き、それまで右腕として活躍してくれた人には同じように指名した社長を支えてもらうように頼むのです。そうすれば、組織が円滑にまわります。
リーダーに向いていないのが右腕
社長が組織全体のリーダーだとすれば、右腕は完全なるサブリーダーという存在になります。サブリーダーというのは、リーダーには向いていません。そのため、あくまでもサブリーダーとしての役割に徹しなければいけません。
右腕として働くブレーンである以上は、自分が表に立って出る人間でないほうが適切です。
人にはそれぞれ役割があるため、その人に合ったポストを与えることが大切です。これを誤ると、右腕だと思っていた人に独立されるなど、痛み目を見ることになります。こうした事実を認識したうえで、経営者は右腕となる人を見極める必要があります。
こうして、経営者と右腕が一緒になってミッションやビジョンを共有していけば、よりビジネスがうまく回るようになります。
経営者だけでなく、チーム全体で会社のミッションを伝えていくことによって、ビジネスよる社会貢献を行いやすくなります。
ミッション・ビジョン(目的)を共有する意味
それでは、どのようにしてブレーンとなる人を引っ張ってくるのでしょうか。これについては、リーダーである以上はミッション・ビジョンを掲げるようにしましょう。
右腕になるような優秀なサポート役は外部から引っ張ってくるのが基本となりますが、ミッションが存在しなければブレーンとして働いてはくれません。
このときミッションについては、以下のような有名な話があります。
あるとき、詩人が砂漠を歩いていると、レンガを積んでいる青年がいました。そこで、彼に「あなたはいま、何をしてるのですか?」と詩人は尋ねました。すると、「見ればわかるだろ。レンガを積んでいるだけだ」と言いました。それを聞いた詩人は「分かりました」と言い、彼を後にして歩き始めました。
歩いていると、再びレンガを積んでいる別の青年がいました。そこで、詩人は同じように「あなたはいま、何をしているのですか?」と尋ねました。すると、「家を作っているのです」と答えました。それを聞いて、詩人は再び歩き始めました。 そうして進んでいくと、またレンガを積んでいる青年を発見しました。そこで同じように、彼に「あなたはいま、何をしているのですか?」と尋ねました。すると、「私は人を救う診療所を作っています。このレンガ一つが将来、何人もの人の命を救う建築物の一部として活躍するようになります」と言います。それを聞いた詩人は、再び歩き出しました。 |
この話について、事実は何でしょうか。それは、「レンガを積んでいる」ということです。
ただ、同じようにレンガを積んでいることには変わりがなかったとしても、それを行っている意味は大きく異なります。実際にあなたがレンガ積み作業を行うとき、どのように伝えられて仕事を行いたいでしょうか。「人の命を救う仕事です」と言われて仕事をしたくはないでしょうか。
右腕になる人だと、当然ながら同じレンガを積む仕事であっても「人を救うために頑張っている」と発言できる経営者のもとでしか働きたいと考えません。優秀な人ほど、お金では動かないのです。これが、リーダーにとって目的・目標が重要になる理由です。
目的があるから人はやる気が出る
ミッションに共感してくれるからこそ、優秀な人が集まってくるようになります。当然、これは懐刀と呼ばれる人を引き寄せるだけでなく、社内での情報共有でも重要になります。
ダメなリーダーが陥りがちなのは「とりあえずこの仕事をしておけ」などのように、単に仕事をメンバーに依頼することです。ただ、人は目的がなければやる気を出して動くことができません。
そこで何の目的も告げずに「この資料を明日までに作ってこい」と仕事を投げるのではなく、「この資料は1億円の商談を行うために必要であり、これが将来会社にとってコア事業になるかもしれない。そのため、ぜひとも頑張って欲しいのだが大丈夫か」と言えばどうでしょうか。
仕事を依頼される側としては、資料を作成する意味がまったく違ったものにはならないでしょうか。
ビジネスを行うとき、やはり意味付け・意義付けが重要になります。このとき経営者であれば、「なぜその仕事を行うのか」を理解できています。ただ、経営者以下の人間であると、その仕事を行う必要があるのかに関するミッションやビジョンがあいまいになりがちです。
そのため、経営者に限らずリーダー職に当たる人は「ビジネスを行う目的」を明確に意識して、さらにそれを部下に伝えるように注力しなければいけません。
先に述べた通り、同じ資料作成であっても目的を伝えるだけで部下のやる気は大きく異なります。これを認識したうえで、リーダーはミッションやビジョンを共有するようにしましょう。
リーダーは部下にメリットを伝えるべき
同時にリーダーである以上は感情を込めてメリットを伝達するようにしましょう。ビジョンを共有したとしても、実際にその仕事を頼まれた人は「なぜ自分である必要があるのか」が気になります。そこで、メンバーからのこの問いに答えるのです。
先ほどの資料作成であれば、例えば「コア事業となるかもしれない今回のビジネスについて、将来あなたを中核メンバーに招き、そこのリーダーを務めてもらおうと考えている。そのため、必ずやり遂げてくれ」と伝えるようにします。
このような明確な理由があれば、部下は期待されていることが分かり、さらにやる気を出してくれます。当然、こうした言葉を投げかけるのは経営者に限らず、右腕となる人も積極的に行う必要があります。ブレーンとして、リーダーの言葉を組織内に落とし込むのが重要な役割になるからです。
自らはリーダーシップを発揮しなくても、リーダーの意思をくみ取って浸透させることが重要になるのです。
なお、仕事を行う理由を伝えるときは「社会貢献になるから」「君の役に立つと思うから」などの漠然とした理由を述べてはいけません。意味不明なメリットを伝えると、部下は「結局のところ誰でもいいのか」と感じ、やる気をなくしてしまいます。そこで、相手に明確なメリットを伝えるようにしましょう。
こうしたメリットについては、単に頭の中で思っているだけではいけません。声に出して部下に伝えることで、ようやく意味のあるものになります。リーダーの声掛けによって、部下はモチベーションが上がるようになるのです。
ブレーンがいなくても回る仕組みを考える
なお、ここまで懐刀の存在について解説してきたものの、経営者である以上はブレーンに依存しすぎてはいけません。右腕となっていた人が急にいなくなったとしても問題なく組織が回る仕組みを構築している必要があります。
残念なことに、会社経営をしていると人から裏切られる経験をするケースがわりと頻繁に起こります。どのような人であっても、裏切りというのは経営者であれば100%の確率で経験することでもあります。
これはブレーンも同様であり、「信頼していた右腕に裏切られた」という事態は意外と頻繁に発生します。そのため右腕の存在が重要なのは間違いありませんが、一人の人間に依存しすぎないようにしましょう。悲しいことではありますが、ビジネスである以上は裏切られる方が悪いのです。
経営では常に最悪の事態を想定しなければいけません。そのためにリスク分散が必要なのであり、重要な人間が急にいなくなったとしても問題ない仕組みを事前に作っておく必要があります。
優秀な右腕がいればビジネスが発展する
ブレーンになり得る人間には、このように特徴があります。自らはリーダーとして向いておらず、独立志向のない人間でなければいけません。
ただ、仕事の出来ばえは非常に優秀であり、社長の言葉をくみ取って他の部下に伝えるのが上手な人物だと、右腕としての素質があります。経営者として全員を引っ張っていく力はなくても、サポート能力に長けていれば懐刀として活躍できるのです。
こうした人は多くの場合、社内には存在しません。外部にいるため、ミッション・ビジョンを伝えることで外から引っ張ってくるようにしましょう。
また、ビジネスでは最悪の事態を想定する必要があるため、たとえ優れたブレーンが見つかったとしても「その人がいなくても問題なく回る仕組み」を構築しておく必要があります。ここまでを考え、右腕を置くのが経営者の仕事です。
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